不定期読書記録

ただひたすらに本の話を

左目に映る星

ネガティブを書かせたらこの人の右に出るものはいない!という何とも私好みで、一般受け良いのかなこれ、と思わず心配になってしまうような帯の言葉を見て思わず買ってしまった作品。本作は奥田亜希子先生のデビュー作にしてすばる文学賞受賞作だ。

主人公早季子は、乱視で左右の見え方が違う。そのことが彼女にとってはずっと特別な感覚で、それを唯一共有できた11歳の頃の奇跡の様な同級生の吉住に恋をして以来、彼女はずっと吉住を忘れられないまま、他者に恋愛感情を抱けないままでいる。そんな彼女がひょんなことから知り合う事となった、純度100%なピュアピュアなアイドルオタクの宮内。片目を閉じる癖と、お互いが虚像を抱えているという事だけがこの、決して交わる事の無さそうな二人を繋げる。

めちゃくちゃネガティブだな、って思ったのが私の最初の感想。

そして大好きだな、という気持ちが次に来た。

早季子は、世間から見ればいわゆるこじらせ女子なのかもしれないんだけど、あるいは早『孤独ぶっている』ということなのかもしれないんだけど、きっと彼女の中の孤独は、誰もが一度は感じた事があって、それを見ないふりしてきたものだと思う。向き合うという事は、非常に難しい。見ないふりをしておけばそれと完全に向き合って立ち向かって戦わなくたっていいんだもの。

彼女が11歳の頃の吉住に言われて忘れられずにいる言葉はいくつかあるが、その中でひときわ心に残ったのは、乱視の目だけで世界を見れば、そこに映るのは全くの別世界で、人と何かを分かち合うという事は難しく、人は究極的に言えばみんな一人で、みんな孤独だということ。それ以来彼女はさめた人になってしまうわけだ。

しかし救いがないのは、吉住君はその脆い世界の象徴である乱視に、コンタクトレンズを淹れる事によって普通の人と同じな感覚を手に入れて、もう早季子と同じ世界にはいなくなってしまったということ、つまり彼女が追い求めているものはもはや虚像なのですよね、もうこの現実世界には存在しない、11歳の吉住という虚像。

そんな彼女がひょんなことから出会った、同じように乱視で、右目を閉じる癖がある青年、宮内。彼はなんともうそれはもう凄くぴゅあっぴゅあなアイドルオタクだった。

不器用で、真面目で、優しくて、純粋な宮内と、根暗でさめていて、孤独な早季子。

全く違う二人の、奇妙な逢瀬。

この小説のラストは、人に寄るかもしれないけれども私は救いだと思った。

それは、一見すれば早季子に対しての救い、という意味だと思われるだろうけれど、その実そうではない。それぞれが異なった、しかし永遠に手に入らない虚像を抱えた真逆の人間二人ともにとっての救いであったと思う。

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